退職代行の検討経験、社会人の4人に1人 実際の利用者の8倍に

  • 2026-03-24
  • 2026-05-18
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社会人の4人に1人が退職代行の利用を「考えたことがある」。しかし実際に使った人は100人中3人にも満たない——株式会社ミズカラが2026年3月に社会人を対象に発表した調査が、この大きな乖離を数字で示した。考えたのに踏み出せなかった層は、実利用者の約8倍にのぼる。退職代行はすでに「若者の話」でも「非常識な手段」でもなく、職場の構造的な問題を映す鏡になっている。

退職代行、検討者は利用者の8倍

退職代行とは、本人の代わりに会社へ退職の意思を伝えるサービスだ。直接上司に言い出せない状況の人が業者に依頼し、退職手続きを代行してもらう。

ミズカラの調査(社会人対象、2026年3月発表)によると、退職代行を「実際に利用した」人は2.8%だった。一方、「利用を検討したことがある」層は24.2%——実利用者の約8.6倍にあたる。差し引き約21.4%が「考えたけど使わなかった」人たちだ。

退職代行はすでに一部の若者だけの話ではない。東京商工リサーチ(TSR)が2026年4月に6,425社を対象に行った調査では、大企業の21.3%が「退職代行を利用した従業員がいた」と回答した。中小企業(7.8%)の約2.7倍であり、50代が在籍する企業での発生率は6.4%、60代以上でも2.8%に達する。世代・規模を問わず、退職代行はすでに職場の現実だ。

では、社会人の21%は何に引っかかっているのか。

退職代行を使わなかった21%の壁

最も多い踏みとどまり理由は、費用の高さではない。ミズカラの調査が示したのは、「退職くらい自分で言うべきだろう」という規範意識と、次の就職への不安が、サービス利用の心理的ハードルになっているという実態だ。

採用リスクという最大の抑止力

「退職代行を使ったことが、次の採用選考でバレたら不利になるのでは」——この懸念は、数字に裏付けられている。東京商工リサーチ(TSR)が2026年4月に発表した調査(6,425社対象)によると、採用側として退職代行の利用歴を把握した場合、75.3%の企業が否定的な判断を下すと回答した(「採用に慎重」49.3%+「採用しない」26.0%)。

4社に3社が選考で不利に扱うと答えている現状では、転職を控えた人ほど使いにくい構造になっている。

「怪しい業者」への不信感

「退職代行って、怪しくないの?」という疑念も、踏みとどまる理由の一つだ。退職代行業者の中には、弁護士資格を持たないまま会社と条件交渉をする業者がある。有給取得の要求や残業代の請求は、弁護士にしか許されていない「交渉行為」にあたり、それ以外の業者が行うと違法になる。

2026年2月にはこうした業者の摘発が報じられ、退職代行全体への不信感が広がった。TSRの調査では、企業の30.4%が「違法な可能性があるとして業者からの連絡を取り合わない」と回答しており、不信感は利用を検討する側にも影響している。

こうした背景から、業者の種類を事前に確認することが出発点になる。現在の退職代行業者は大きく三種類に分かれる。一般業者型は退職の意思を会社に「伝える」だけで、条件交渉はできない。弁護士法人型は弁護士が直接対応するため、未払い賃金の請求や有給取得の交渉が法的に可能だ。労働組合型は組合としての権限を持ち、有給消化や引き継ぎ条件を会社と交渉できる。有給消化や未払い賃金の回収を求めるなら、一般業者型では動けない。

自力退職という分岐点

検討しながら使わなかった理由のもう一つは「結局、自分で辞められた」だ。退職代行を調べて費用や流れを把握するプロセス自体が、上司に伝える覚悟を固める助走期間として機能することがある。ミズカラの調査でも、検討経験者の中には「自分で伝えることができた」を最終的な結果として選んだ層が含まれており、サービスへの需要が検討中に自然消滅したケースも一定数存在する。ただし、「辞めたいのに辞められないまま働き続けた」という結末のデータは現時点では公表されていない。

21%の壁の本質は、費用の問題ではなかった。規範意識、採用市場でのリスク認識、業者への不信感——これらが重なった、心理的・社会的なハードルだ。

退職代行を選んだ人の実像

では、そのハードルを越えた人たちは、どんな人たちだったのか。

責任感の強い人が選ぶ逆説

パーソル総合研究所が2025年12月に発表した調査では、退職代行の利用者に「協調性が高く、責任感が強い」傾向が共通して見られた。「無責任な人が使うサービス」という世間のイメージとは、正反対の実像だ。

利用者の多くは、依頼時に「申し訳ない」「周囲を裏切ってしまった」という罪悪感を抱えながら依頼している。責任感があるからこそ、直接上司に言い出せなくなる——この逆説が、退職代行という選択を生んでいる。

退職代行モームリが集計した利用者プロフィールによると、約6割が20代、約63%が勤続半年未満だった。社会人経験が浅く、辞め方のロールモデルを持たないまま限界を迎えた人たちの姿が、この数字に表れている。

職場孤立が生む声なき退職

利用者に共通するもう一つの状況が、職場での孤立だ。上司にも同僚にも相談できないまま追い詰められ、誰にも言えないまま限界を迎える。退職代行はそのとき「最後の出口」として機能する。

モームリの集計では、パワハラや過重労働、精神的な限界といった心身の健康問題が退職の直接的な引き金になった利用者が約7割にのぼる。「逃げた」のではなく、「選択肢がなくなった」末の決断だ。

ミズカラの調査が示した8.6倍という数字は、退職を望みながら動けない人の多さを映している。モームリへの問い合わせでは、最初の接触から実際の依頼まで数週間から数か月かかるケースが多く、その間も職場状況が悪化し続けるケースが報告されている。「迷っている時間」自体がコストになりうる構造は、利用者の実像と採用市場の評価基準との間にある認識のずれとともに、まだ社会的に十分には議論されていない。

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