2026年度の労働基準法改正案、提出見送り 雇用契約デジタル化に猶予

  • 2026-03-24
  • 2026-05-18
連続勤務48日が合法な国で、14日制限はなぜ通らなかったのか

「会社が働かせていいギリギリのライン」を定める労働基準法が、約40年ぶりに大きく書き換えられるはずだった。連続勤務の制限、インターバルの確保、労働条件通知書のデジタル化——働く人の日常に直結する改正が一括で議論されていたが、2025年12月末に突然止まった。40年前に作られた「昭和のルール」が、もう数年続くことになる。

労基法改正「見送り」で何が止まったか

40年ぶり大改正の中身

労働基準法(労基法)とは、残業の上限や休日の最低日数など「会社が働かせていいギリギリのライン」を定めた法律だ。1987年の改正から約40年、その根幹部分はほとんど動いていなかった。

2025年1月、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」が報告書をまとめ、改正の主要項目が出そろった。連続して働ける日数に上限を設ける「連続勤務制限」、仕事が終わってから次の勤務開始まで一定時間を空ける「勤務間インターバルの義務化」、紙・ハンコ前提の労働条件通知書を電子化するルールの整備——これらが一括で改正される想定だった。

2026年通常国会断念の経緯

2025年12月26日、上野厚労相が会見で通常国会への法案提出を見送ると発表した。人手不足が深刻な宿泊・飲食・医療などを抱える企業・経営者団体が、連続勤務の一律規制や勤務間インターバルの義務化に強く反対し、労働組合側との合意が得られないまま法案の提出期限を迎えた。

「中止」ではなく「延期」だ。研究会での議論は続いており、当初2027年4月を目指していた施行は後ろ倒しになる見通しだが、法改正そのものが消えたわけではない。

48連勤が合法のまま——14日制限はなぜ潰れたか

止まった改正の中でも、とりわけ深刻な影響が続くのが連続勤務の制限だ。

4週4休制が許す連続勤務の現実

現行の労働基準法には「4週間に4日の休日を与えればよい」というルールがある(変形休日制と呼ばれる特例)。問題は、その4日をどこに置くかが企業の裁量に任されていることだ。月の最初と最後に休日を2日ずつ固めれば、その間は連続して出勤させることができる。理論上の最大値は48日間連続勤務——これが現行法の範囲内だ。

改正案は「13日を超える連続勤務を禁止する」、言い換えれば2週間に1回は必ず休ませることを義務化するはずだった。今回の見送りで、この規制は白紙に戻った。

矛盾がある。厚生労働省の「労働基準関係法制研究会報告書」では、「2週間以上の連続勤務は精神障害の労災リスクがある」という判断基準を示している。法律は48日間の連続勤務を許可し、同じ国の補償基準は14日を超えたら危険と判定する——この矛盾が、少なくとも数年は続くことになった。

IT・物流・飲食が反対した理由

法案が動かなかった背景には、複数の業界からの強い反対がある。24時間稼働のITシステム保守、宿泊・飲食、建設・製造現場など、慢性的な人手不足が続く業種にとって「2週間に1回の休日義務化」は、そのまま事業継続の問題に直結する。「代わりに入れる人員がいない」「一律に休日を増やされると店が閉まる日が出る」——感情論ではなく、構造的な人手不足が反対の実態だ。

厚生労働省「令和6年就労条件総合調査」によれば、退勤から次の出勤まで一定時間を空ける「勤務間インターバル制度」を導入している企業は全体のわずか5.7%にとどまる。努力義務(やれるならやってください、という任意のルール)であり続けた結果がこの数字だ。

パナソニックのように、法改正を待たず連勤上限を13日とする自社ルール整備を進める企業も一部に出てきている。ただしその動きはまだ限られており、法律が追いつく前に動く職場とそうでない職場の格差は、改正が遅れる分だけ広がり続ける。

労働条件通知書のデジタル化、自分の書類はどうなる

勤務のルールだけでなく、書類の形も変わるはずだった。連勤規制と同時に議論されていた労働条件通知書の電子化も、今回の見送りで動きが止まった。

労働条件通知書とは何か

「雇用契約書」と混同されやすいが、法的には別物だ。雇用契約書は会社と従業員が双方で署名・押印する民法上の契約書であり、作成は義務ではない。一方、労働条件通知書は給与・勤務時間・休日・休暇など主要な労働条件を会社が書面で従業員に渡す書類で、労働基準法が交付を義務化している。入社時に渡される書類に「労働条件通知書」と書かれていれば、それがこの法定文書だ。

紙の通知書がなくなる予定だった

現行法では、労働条件通知書を書面(紙)で渡すことが原則だ。電子メールやPDFで送るには、労働者ひとりひとりの個別同意が必要になる。改正案ではこの仕組みを変え、デジタル交付を原則とする予定だった。入社時の書類がメールで届くことが標準になるはずだったが、見送りにより「紙でもいいし、同意があればデジタルでもいい」という現状がもう数年続く。

今の自分には何ができるか——法改正を待たずに使える権利

延期により当面は現状維持だが、現行法でも使える権利がある。「電子データで渡してほしい」と会社に申し出れば、労働基準法施行規則のもとで電子交付への切り替えが認められている。知らないまま紙の書面を受け取り続けている人が多いだけで、申し出ること自体に法的な障壁はない。法改正の動向にかかわらず、今すぐ確認できる選択肢だ。

2027年以降、働き方は結局変わるのか

では、いつ動くのか。改正の方向性そのものは撤回されていない。最短シナリオは、2026年中に労働政策審議会が最終答申を出し、2027年通常国会で法案が成立、同年秋か2028年4月に施行というルートだ。

インターバル義務化と有休拡大の行方

勤務間インターバルの義務化は今回の見送りで持ち越しとなり、努力義務のままだ。「つながらない権利」(退勤後のメール・チャット対応を断れる権利)も、法制化ではなくガイドライン策定にとどまる見込みで、強制力はない。有給休暇の取得義務拡大など他の議論も、いずれも結論は持ち越しとなった。

三菱電機のように、勤務間インターバルの確保と退勤後の連絡禁止を法改正を待たず自社ルール化した企業も出ている。法律が遅れても職場は変えられる——ただし、動ける職場と動けない職場の格差は、改正が長引くほど開いていく。