退職代行モームリを運営するアルバトロスの前代表が2026年2月に逮捕され、サービスは一時停止に追い込まれた。4月に再開すると、1週間で64件の退職依頼が確定した。累計15,934件(2024年8月時点)を積み上げてきた業界大手は、最大の危機を経ても需要を失わなかった。「辞めさせてもらえない」という日本の職場構造が、それを証明している。
退職代行とは何か
退職代行の仕組みはシンプルだ。利用者が申し込むと、担当者が会社へ「本日付で退職します」と連絡する。本人は以後、会社と一切やりとりしなくていい。引き止めの電話も、退職届の直接提出も不要で、手続きを代行業者が進める。
モームリは正社員22,000円(税込)という価格でこの仕組みを提供している。2022年3月の開業から、知名度と価格競争力を武器に、驚異的な速度で利用者を積み上げていった。
退職代行モームリ 1.5万件突破の全容
2024年8月に累計15,934件到達
アルバトロスは2024年8月7日のプレスリリースで、累計退職代行実施件数が15,934件に到達したことを公表した。同時点での相談件数は28,000件を超えている。
| 属性 | 内訳 |
| 年代(最多) | 20代:60%以上 |
| 年代(次点) | 30代:約26% |
| 勤続1ヶ月未満 | 24.4% |
| 勤続1〜6ヶ月未満 | 38.7% |
| 入社半年以内の利用 | 6割超 |
長く勤めてから辞めるのではなく、辞め方がわからないまま限界を迎えた層が流れ込んでいる。急成長の裏で、法的なグレーゾーンも膨らんでいた。
前代表逮捕から再開1週間で64件まで
非弁提携で問われた三位一体スキーム
2026年2月3日、創業者の谷本慎二前代表が弁護士法違反(非弁提携)の疑いで警視庁に逮捕された。問題視されたのは、株式会社アルバトロス・モームリ労働組合・提携弁護士の三者が連携して退職交渉を行う仕組みだ。弁護士法では、弁護士以外の者が報酬を得て交渉などの法律事務を代わりに行うこと、またはそうした業者と弁護士が利益を分け合う形で提携することを「非弁提携」として禁じている。捜査当局は、この三位一体の運営が実質的に同法に抵触すると判断した。アルバトロスは直ちに新規受付を停止した。
新体制で再開、需要は止まらなかった
2026年4月1日、浜田優花氏が新代表に就任。法令遵守体制を整えた上で、同月23日に受付を再開した。アルバトロスの発表によると、再開からわずか1週間で64件の退職が確定した。逮捕報道があっても、利用者は戻った。
モームリの調査によると、利用理由の1位は「上司からのハラスメント」(33.9%)、2位は「強引な引き止め」(30.2%)だ。「辞めたい」のではなく「辞めさせてもらえない」という状況が代行サービスを頼らせている。前代表の逮捕は、その構図を何も変えなかった。
利用者データが裏付ける需要の正体
なぜこれほど需要があるのか。データが答えを持っている。
1社165件・入社初日退職という現実
ITmedia NEWSの報道によると、退職代行モームリの利用回数が最も多い企業は大手人材派遣会社で、2025年10月時点の累計は165件に上る。某自動車販売会社が100件超で続く。利用理由の9割は「労働環境・人間関係」や「退職時の強引な引き止め」が占めており、個人の事情ではなく職場側の構造が反復利用を生んでいる。アルバトロスの集計では、2025年度新卒の入社初日に退職代行を利用したケースも確認されており、入社前から意思が固まっている層が一定数存在する。
東京商工リサーチの調査では、利用者の年代構成で50代が6.4%、60代以上が2.8%を占めており、「若者だけの問題」という認識がデータと一致しないことも示されている。
| 需要側(利用者) | 拒絶側(企業) |
| 利用件数は増加の一途。1社あたり165件超の反復利用も発生 | 企業の30.4%が「弁護士・労働組合以外の代行業者とは交渉しない」と回答 |
需要が増える一方、企業側の対応も硬化している。東京商工リサーチの調査では、企業の30.4%が「弁護士や労働組合以外の退職代行業者とは交渉しない」と回答している。利用者が増えるほど、拒否されるリスクも高まる。モームリが再開した市場は、需要と不信が共存したまま動いている。