退職代行「モームリ」を手がけるアルバトロスが、Z世代向けSNS「Penmark」を運営するペンマークと組み、管理職向けAI「コミュトレZ」を2025年7月に公開した。「辞める人の声」を4万件以上集めてきた企業が、今度は管理職が部下を辞めさせないためのツールを作る——その逆転の構図が開発の出発点だ。サービス開始から約10ヶ月が経過した現在、退職相談データを競争優位とするこのAIの実態を整理する。
退職代行が「コミュトレZ」を作った理由
モームリ×Penmarkの座組
コミュトレZは、退職代行モームリの運営会社アルバトロスと、大学生・若手社会人向けSNS「Penmark」を展開するペンマークの共同開発だ。
アルバトロスが持つのは、退職相談の現場で積み上げた累計4万件超のデータだ(出典:コミュトレZ公式サイト)。「なぜ辞めたいのか」という本音が、業種・年齢・状況を横断して蓄積されている。ペンマークはZ世代のリアルな行動・価値観データを持つ。この二つが合わさって、「上司の言葉がどう受け取られるか」を診断するAIが生まれた。
離職率34.9%という背景
開発の動機には、数字がある。厚生労働省の調査(2021年卒)によれば、大卒就職者の3年以内の離職率は34.9%——3人に1人が最初の職場を3年以内に去る(出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」)。
ペンマークが実施した「Z世代若手社員意識調査2025」では、Z世代の89.1%が「上司とのコミュニケーションが原因で退職を考えたことがある」と回答(出典:株式会社ペンマーク・PR TIMES)。離職の引き金が「給与」より「人間関係・上司」にある、という実態が数字に出ている。
管理職の一言をAIが6指標で採点する
Z世代が辞める言動を数値化
コミュトレZの中核機能は、上司が部下に送るメッセージを入力すると、AIが即座に6つの指標でスコアリングする仕組みだ。共感度・明確さ・自律尊重度・心理的安全性・適切度・退職リスクの6軸で診断され、それぞれが数値として可視化される(出典:ITmedia NEWS)。
前者5軸は、言葉の受け取られ方を異なる角度から評価する指標だ。過度な管理傾向(マイクロマネジメント)や高圧的な言い回しも、ここで検出される。「退職リスク」は残りの5指標を総合し、その発言が離職の引き金になる可能性を数値で示す。
ペンマークの「Z世代若手社員意識調査2025」では、Z世代が敬遠する上司の特徴として「高圧的な態度」が61.9%、「感情的な言動」が54.5%と高い割合を占める(出典:大学ジャーナルオンライン)。AIはこうした言動パターンをフレーズ単位で検出する。
| 指標 | 役割 |
| 共感度・明確さ・自律尊重度・心理的安全性・適切度(5軸) | 言葉の受け取られ方を異なる角度から個別評価する |
| 退職リスク | 5軸を総合し、その発言が離職の引き金になる可能性を一つの数値で示す |
退職リスクの可視化と言い換え提案
不適切と判定された表現には、Z世代に響く言い換えをフレーズ単位で提案する。生成はLLMベースで行われ、同じ意図でも受け取られ方が変わる代替表現が具体的に示される仕組みだ。
診断結果には、入力したコミュニケーションと近いパターンで実際に退職に至った過去事例も表示される。スコアと並んで「似た状況で、部下は辞めた」という事実が提示される設計で、数値だけでなく実例として離職の現実を見せる。
公式サイトには複数の管理職による使用事例が掲載されている。IT企業の開発部門管理職T.N氏は「部下に送る指示をAIで事前診断することで、Z世代の価値観を理解できた」と述べ、製造業の営業部門管理職S.T氏は自身のコミュニケーションが「高圧的」と診断されたことで課題を客観視したと報告している(出典:コミュトレZ公式サイト)。
退職データ特化という独自性と現時点の限界
管理職向けコミュニケーション支援ツールは、AIコーチングや1on1支援など複数のカテゴリで製品化が進んでいる。コミュトレZが他と異なる点は、実際の退職相談データを学習素材にしていることだ。「もう自分では伝えられない」と代行業者に連絡してきた段階のテキストには、通常の退職面談では出てこない本音が記録されている。こうした「直前」の言語データを持つのは、退職代行業者だけだ。
一方で、サービス開始から約10ヶ月が経過した2026年5月時点でも、導入企業数・スコア改善率・離職率変化の集計値といった実績データは公開されていない。効果を示す材料は、開発元が選定した使用者の証言にとどまる。利用申し込みは公式サイト(https://z.penmark.jp/commutore)から可能で、料金・契約形態の詳細は問い合わせ対応となっている。